薔薇と少年

明るいブロンドの髪、青い瞳。陶器のような白い肌に、すらりと伸びる四肢はまるで作り物のそれだった。短いズボンに剥き出しの膝から血を流す。何事もなかったかのように傷口を舐めると、血の味を堪能してから「禁断の味ってこんな味かな」と笑って見せた。

アンドリュー・ブライトンは私の隣家に住む少年だ。私が趣味の薔薇の手入れをしていると必ず寄ってきて、一本欲しいと言う。美しい少年に似合うそれを選んで渡せば、アンディは嬉しそうに香りを堪能し、棘に手を食い込ませてわざと血塗れの掌を見せる。

「おじさん、これが舐めたいんでしょう」

にやりと笑う彼は美しさの中にどこか妖艶さも持っていて、天使なのか悪魔なのか私には判断がつかなかった。

「それをやったら私は君の両親からこっぴどく叱られてしまうよ」

「言わないよ。絶対に言わない」

塀から身を乗り出し、掌を私の眼前に押し付ける。

「舐めて」

人は空腹の時、目の前に好物が差し出されたら果たして我慢できるのだろうか。私には出来ない事は明らかだった。鉄の香りと薔薇の香りが混じったそれは、酷く私を誘う。笑顔で私を誘惑する彼は、まるでエデンでアダムとイヴを騙した蛇の如く、魅惑的に言葉巧みに私を地獄へ突き落とそうとしているようだった。

我慢出来ずに手首を掴み、べろりと舐めれば、アンディは小さく嬌声をあげ、頬を赤く染めながらシャツの釦を一つ開ける。その首筋に、赤い斑点がいくつか見えた。

「アンディ、君は」

私の言葉を遮るように人差し指を唇に当て、内緒だよ、と囁く。

「色んな人が僕の身体を触りたがるよ。でもね、血を舐めるのはおじさんだけなんだ」

「そうか」

「女みたいに扱うんだ。時に優しく、時に激しく。でも、おじさんが一番優しい。僕はおじさんが好きだよ」

触っていいよと言いながら釦をまた一つ開ける。肌とは対照的な桃色の小さな粒がちらりと覗き、再び私を誘う。

「僕、知ってるんだ。おじさんは僕にやらしい事をしたい訳じゃない。本当は、食べたいんでしょ」

薔薇の埋まっている土を塀越しに靴で掘りながら、彼はそこに少しだけ浮いてきた白骨を見る。

「おじさんは、人間を食べるんだ。でも、今迄美味しいと思った事ある?僕の血が一番美味しかったでしょ」

私の顔に血を塗りたくるその少年は、少年と呼ぶにはとても耽美で、挑発的で、私にはその誘惑を断る程の固い意志は無かった。おいでと誘えば簡単についてくるアンディは尻軽なのか警戒心がないのか、それとも私だから来てくれたのか、今や尋ねても答えられない彼に聞いても分からない。

四肢を切断し、舌を噛みちぎって飲み下した。甘く、蕩けるような味だった。片目をくり抜くと血の涙を流したが、叫ぶ事もなく彼は終始笑っていた。美しい脚はホルマリン漬けにし、手は煮込んでスープにして彼に食べさせてやった。話す事は出来ないが、咀嚼を繰り返しその味を堪能する彼を見ていればその心の内は見てとれた。

「僕って、やっぱり最高に美味しいんだね」