短編2.


友人から、とある漫画を借りた。俺が読みたかった訳ではないけれど、「彼女と楽しめよ」という言葉と共に、半ば無理やり鞄の中に捻じ込まれた。

帰宅して、カリームがいないことを確認し、居間の隅でこっそりとページを捲った。

所謂、エロ漫画だ。

女の人がセクシーな下着を見に纏い、中々乗り気にならない旦那を誘ってみたら、燃え上がってしまった、と言うようなありきたりな内容。しかし、そこはエロ漫画。女の人はおおよそ現実では使わないようなエロすぎる言葉を並べ立て、快感に溺れていた。

恥ずかしくてさらっと流し読みしてから、鞄に戻す。

こんな言葉言わなくたって、カリームはいつも俺を気持ち良くしてくれるし、何より日本語の覚束ないカリームにこんな卑猥な言葉の意味が分かるのか。エロビデオで日本語を覚えた、とか言っていたけれど、それでも伝わる気がしない。役に立ちそうにないな、と思った。

 

思ったのに。

 

カリームとのセックス中に、頭の片隅に残っていたのか、思わず口に出してしまったのだ。

 

「俺の中に精子を注いでっ孕ませてえっ

カリームの動きがぴたりと止まり、俺はハッとして自分の口を手で塞いだ。自分がこんな台詞を吐いてしまうなんて、思いもしなかった。人は気持ち良くなると、自分でも何が何だか分からなくなるのだろうか。

恥ずかしくて顔を逸らし、ふるふると震える俺の顔をじっと見つめて、カリームは尋ねた。

「そんな言葉、どこで覚えましたか。」

少しキツい口調で、責めるような言い方。怒ってる?

「や、あの、」

「誰かに言われましたか。言わされましたか。」

挿入していたものを引き抜こうとする。かと思ったら、一気に奥まで突かれた。

「ひっ…♡

突き上げられた途端に、俺のものからは精液が勢い良く吹き出した。

「サクラさんは、僕以外の人と、こういう事しますか。」

「違っ、待っ、ていきなりそんなっ

いつもより心なしか乱暴に、腰を動かし俺を犯すカリーム。誤解している。何とかしなくちゃ。

ぐい、と俺の片足を持ち上げ、さらに奥まで挿入する体勢になる。いつもより深いところを突かれて、身体がガクガクと震えてしまう。

「やっ、あっそこ、駄目っ

「昨日、サクラさんお友達とお酒を飲みに行きました。その時ですか。」

「違っ、違うからあっ、そこっ、ばっかやらあっ

「サクラさん、他の人とセックスしましたか。」

ゴツ、ゴツ、と奥を擦られ、気持ちよくて呂律が回らない。頭が働かない。精液ではなく透明な液体が、ぴしゃりと溢れ出た。

「ごひゃ、誤解、だってばあ!」

「あんな言葉、サクラさん言いません。いつもと違います。僕の他に誰かとセックスしましたか。」

「きいて、よっ、あっ抜いてっ、一回抜いてえっ!」

頭に血が上っているのか、ふうふうと息の荒いカリームの首に腕を回し、キスをする。

「サクラさっ、」

聞いて?」

唇を離すと、少し落ち着いたのか、俺の目を見てくれた。その目はまだギラギラしていたけれど、取り敢えず話は聞いてくれそうだ。

しかし、いざ話すとなると、少し恥ずかしい。

「あの、さ、と、友達に、借りたんだよ。」

何を、という顔で俺の言葉の続きを待つカリーム。

「え、エロ漫画を。それで、その、漫画に出てきた台詞をつい言っちゃって。」

羞恥プレイすぎる。下を向いてどんどん声が小さくなる俺の髪をさらりと撫でて、カリームは言った。

「他には、」

「え?」

「他には、どんな言葉、覚えましたか。」

「え、っと、ひあっ!」

胸の突起に吸い付き、甘噛みする。ぞくぞくと快感の波が押し寄せる。

「聞きたいです。サクラさんの、セクシーな言葉。」

「あっそんなのっ、言いたくなっ、あ、んんっ

突起を強く引っ張られ、ぐり、と抓られる。

「言いたくないですか。」

「は、んっもっと、強くしてっ乱暴にしてっ

胸から口を離すと、挿入したままだったそれを再び動かし始める。いつもより少し激しく、時々俺の尻を叩いたりして。

「だめっらめっおひり壊れちゃうっ

奥を責められすぎて気持ちが良くて、まともに舌が回らないが、無意識に漫画で読んだような言葉を発してしまう。

「こんなにセクシーなサクラさんを知っているのは、僕だけです。違いますか?」

「違わない、俺のここはあっカリームだけのもの、だからっ

「愛しています。サクラさん。」

「俺、俺もっ、カリーム大好きっ。」

そのままキスをされると、舌を絡めて涎を吸われた途端に、俺は果ててしまった。

 

「これですか。」

俺の鞄を開けて、漫画を取り出しペラペラと捲るカリーム。恥ずかしすぎて、顔が見られない。

一通り見てから、納得したのか漫画を戻し、俺の横に座る。

「セクシーな言葉、たくさん書いてありましたね。」

「っ!」

「もっと言ってほしいです。」

枕をカリームの顔に投げつけ、なるべく小さく、丸くなった。

「あんなの、」

蚊の鳴くような声で、言った。

「もう二度と読まない。」

「僕はいつものキュートなサクラさんも、セクシーなサクラさんも、好きですよ。」

俺の髪にキスをしてニヤリと笑うカリームを見て、今後は気を付けよう、と心に固く誓った。