4.夏祭り
「お祭りがね、あるんだよ。」
店長が、レジの下にポスターを貼りながら言った。駅前商店組合から頼まれた、花火大会のポスターだ。
「毎年やってますよね。河川敷でしたっけ。」
「そうそう。桜君は、行った事ある?」
「そう言えば、行った事ないですね。いつもバイト入れちゃってるや。」
奥で雑誌を整理していたカリームが、何故かそわそわしてやってきた。
「サクラさん、お祭り嫌いですか。」
「いや、嫌いっていうか、」
行く相手がいないだけ、と言うのも何だか恥ずかしくなってしまった。でも仕方ない。つい最近まで、童貞だったのだから。
カリームは相変わらずそわそわしている。その様子を店長は笑顔で見ている。何なんだ。
「お祭りの日、桜君のシフト外しておいたよ。」
それからカリームに目線を移す店長。
「シャフール君と、行っておいでよ。シャフール君、桜君と行きたいって、このポスター届いた日に言ってたよ。」
「え、でも、」
「大丈夫。お祭りの日って、河川敷の方に人が集まるから、ここの店暇なんだ。」
確かに、毎年バイトに入っていたが、河川敷とは反対方向にあるこのコンビニは、花火大会の日は客もまばらだ。だからって、店長一人に任せるのは、悪い気がする。
「深夜シフトの子がね、この日夕方入りたいって言ってるんだ。だから、気にしなくて良いよ。」
裏に回ってシフト表を確認すると、普段深夜に入っている外国人の名前が書いてあった。
「サクラさん。」
カリームは遠慮がちに、俺に聞いてくる。
「サクラさん、お祭り、僕と一緒、嫌ですか。」
「嫌じゃないよ!」
思わず大きな声が出てしまい、咳払いをして誤魔化す。
「い、嫌じゃないよ。カリームと一緒なら、俺も行きたい。」
ぱっとカリームは子犬の様な笑顔になった。それを見ている店長は、まるでカリームの親になったかの様な顔で、ニコニコしている。よかったね、と肩を叩いて、カリームに目配せをする。それに気付いたカリームは、またもじもじして言った。
「サクラさん。キモノ着ましょう。」
着物って、もしかして浴衣の事かな。へぇ、と俺は浴衣姿のカリームを想像する。格好良いんだろうな。しかし、肝心な事を思い出す。
「いやいや、俺、浴衣の着方、知らないよ!それに第一、持ってないし。」
「借ります。店長さん、キモノ屋さんでした。たくさんあるって言いました。」
店長を見ると、親指を立てている。
「僕の実家、呉服屋だったんだよ。浴衣いっぱい余ってるから、好きなの着てね。着付けなら、僕に任せて。それに、」
店長はカリームを見た。
「シャフール君、着付けのやり方覚えたいんだって。だから、桜君はシャフール君に着せて貰えば良いよ。」
花火大会当日、浴衣姿のカリームが俺の家まで迎えに来た。シンプルな、藍染の浴衣。店長曰く、外国人にはデニムに近い色合いの方が違和感無く着こなせる、との事だった。カリームの手には、俺の分の浴衣が入っていた。白地に格子柄の浴衣だ。俺は色が白いから似合うと思った、と言うカリームの言葉に、悩んで選んでくれたことが分かって愛しくなった。
中でカリームが俺に浴衣を着せてくれた。店長が書いてくれた絵付きのメモ用紙を見ながら、しかし、帯が上手く結べず何度もやり直す。自分でやろうとしたら、カリームが止めた。
「サクラさんに着せたいです。僕がやりたいです。」
と言う事だったので、任せる事にした。何とか結ぶが、少々歪であった。しかし、それもまた、カリームが頑張ってくれた証だと思って、俺は嬉しくなった。それから、花火大会へ向かった。
祭りの場は、とても賑わっていた。老若男女、屋台のご飯を片手に、花火までの時間を満喫していた。
その中でも、飛び抜けて背の高い浴衣姿の外国人は、やはり目立った。
横を歩きながら、カリームを見る。やっぱり、格好良いよなぁ。
ふとこちらを向いたカリームと目が合い、何だか恥ずかしくなって顔を逸らした。
「サクラさん、僕、あれやりたいです。」
カリームが指差したのは、射的の屋台だった。目をキラキラさせて、俺の腕を引いて駆け寄る。屋台のおじさんは体の大きい外国人に驚いていたが、お金を渡すと銃と弾を用意してくれた。
「サクラさん、欲しいもの、ありますか。」
並んだ景品を見る。上の段に、カエルの人形があった。俺は、カリームが置いていったカエルの置物を思い出した。
「あのカエルかな。」
カリームはにっこり笑って、狙いを定めた。その顔付きは、映画で見たスナイパーの様で、キリッとしていて、改めてカリームの格好良さを実感した。
様になるなぁ、なんて考えていたら、パンッと乾いた音がして、最初の1発でカエルを落としてしまった。
屋台のおじさんは驚きながらも、そのカエルを拾い上げ、カリームに渡してくれた。
「サクラさん、どうぞ。」
先程のスナイパーの顔とは打って変わって、可愛い笑顔で俺にカエルを差し出した。
「ありがとう。凄いな、カリーム。1発で当てちゃうなんて。」
カリームはへへ、と照れ笑いをした。
それから、焼きそばを食べてみたいと言うカリームの希望で、焼きそばと、隣にあったたこ焼きも買った。
石垣に座り、食べようとした時、カリームが開いた足の間からものが見えた。
「え、ちょ、カリーム!」
俺は慌ててカリームの足を閉じさせる。
「な、何で下、履いてないの。」
「キモノを着る時は、何も付けないと聞きました。」
「いや、でも、」
カリームのものは大きい。もしも今みたいに浴衣が捲れたら、見えてしまう。
カリームは、何故俺が焦っているのか気にする風もなく、焼きそばを食べ始めた。箸が思う様に使えず、苦戦していたので、俺は片手でカリームの浴衣を押さえ、片手で焼きそばを食べさせてやった。
食べ終えて、花火を見ようと移動する際、俺はずっとカリームの下半身を隠す様に動いていた。側から見たら挙動不審だったな、と今は思う。でも、カリームが露出狂とされるのも嫌だったし、何より恋人の俺以外の人にそれを見られるのは、もっと嫌だった。
河川敷の人混みの中、空を見上げると、大きな音と共に光が舞った。
花火大会なんて、もしかしたら初めて来たかもしれない。いつも遠くで聞こえていた音の正体が、こんなに綺麗だったなんて。
すっかり花火に見惚れていると、カリームがそっと耳打ちしてきた。
「サクラさん。」
「何?」
上を見ながら返事をする。
「見えてます。」
「花火な。綺麗だな。」
「違います。サクラさん、胸、見えてます。」
その言葉に花火から目を逸らし、胸元を押さえた。浴衣の合わせの間から、見えてしまっていた様だ。カリームの顔を見ると、ニヤリと悪い顔。抱き寄せられて、気付いた。カリームのものは、すっかり起ち上がっている。俺はどんどん顔が赤くなるのを感じた。
「サクラさん。抜けましょう。」
耳元で囁かれ、小さく頷いた。
河川敷から少し離れた、人のいない林に来ると、カリームに引き寄せられ、キスをした。口に、頬に、首筋に。
流石にこんな所で本番はしないだろう、と油断していると、カリームは俺の浴衣をゆっくり脱がし始め、胸の突起を舐めたり弄ったりし始めた。
「か、カリーム、駄目だって、花火、見に来たのに、」
そんな俺の言葉には耳を貸さず、カリームは下も弄り始める。下着をずらされ、俺のものが露わになる。
乳首に爪を立て、カリカリと弄られ、思わず出そうになる声を必死に堪えた。カリームは、胸を弄るのが好きだ。片方は舌で、片方は指で犯される。
こんな所で痴態を晒したくないのに、いつもと違う状況が新鮮なのか、カリームだけでなく、俺も興奮してきてしまう。
「ひ、あっ、」
突然、思い切り吸われ、声が出てしまった。慌てて口を塞ぎ、我慢する。俺のものからは、もう白濁の液が後ろにまでつたう程に溢れ出ている。足が震えて、立っていられない。カリームが片腕で、俺の身体を支えてくれていなければ、倒れ込んでいる所だ。
胸を弄っていた指を俺の後ろへ挿入れた。
「やっ、カリーム、やだっ、」
俺の言葉を無視して、挿入れた指を動かす。グリ、と中を捻る様に。身体が仰け反り、最早精液は出て来ず、代わりに透明の液体が噴き出す。
「サクラさん、聞こえますか。」
胸を舐めながら、カリームが言った。
「花火の音、まだ終わりません。声、出しても大丈夫です。」
花火の音なんて、俺にはとっくに聞こえていない。自分の浅い息遣いと、下を弄る卑猥な音だけだ。
カリームは、胸から口を離すと、ゆっくりと俺を地面に寝かせた。ぐったりとしながらカリームを見ると、見事に勃ち上がったものがあった。それは、先程浴衣から覗いていたそれよりも、遙かに大きくなっていた。
何故だか俺は、それを自分の物だと証明したくなった。上体を起こし、顏を近付ける。裏筋をゆっくりと、垂れる我慢汁を舐めとった。びくり、と反応したカリームは、慌てて俺の肩を掴む。
「駄目です。サクラさん。そこは、」
「駄目は、気持ち良い、なんだろ?」
そう言って、口に含んだ。とろんとした目で必死に舐めていると、カリームは驚きながらも、どんどん雄の顔になっていく。
形勢逆転。今日こそ俺が主導権を握ってやる。
そう思ったのも束の間、カリームは俺を押し倒し、一気に下半身に自分のものを突き立てた。
いきなりの圧迫感。何度やっても、カリームの大きさに、目の前がチカチカする。
カリームは腰を振りながら、俺の胸を弄る。再び、透明の液体が噴き出す。
「サクラさん、大丈夫ですか。」
耳元で囁かれる。低く、優しい、けれど少し責めるような声。
「や、だぁっ、もうイってる、イってるからぁ、」
涙を流し、涎を垂らし、快楽に溺れていく。頭がおかしくなりそうだ。
カリームは、身体に力を入れると、俺の中へ吐き出した。
力が抜け、ぐったりしている俺に対して、カリームはそのまま、花火が終わるまで何度も続けた。
帰り道。乱れた浴衣を直しながら、俺はカリームの足を蹴飛ばした。
「このスケベ野郎!」
「スケベって、なんですか。」
先程までの獣の様な表情とは一変、今は子犬の様に愛らしく、しかし清々しい顏をしている。
俺はカリームを置いて走り出す。
「変態って事だよ!巨根!絶倫!隠れドS!」
思い付く限りの罵倒をするが、慌てて追いかけてきたカリームはぽかんとしている。
「サクラさんの言葉、時々分かりません。」
「折角花火見に行ったのに。せめて家まで我慢しろよ。あ、青姦、とか、」
「家なら、良いですか?」
は、としてカリームを見ると、ニヤリと悪戯っぽく笑っている。顏を近付け、囁いた。
「家に帰ったら、もう一度しますか?」
再び蹴飛ばし、走った。顔が赤くなっているのを隠す様に。
追い付いたカリームに、俺は独り言のように呟いた。
「まぁ、家なら、良いけど、」
抱き付くカリームの下半身が勃ち上がりかけているのを感じながら、浴衣はクリーニングに出す前に一度洗わなきゃなあ、と俺は思った。
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