番外編オメガバースパロ


昨夜から、身体が火照って眠れない。浅く息をして、熱を逃がそうとする。抑制剤は、飲んだ。波が過ぎ去るのを必死で待つ。発情期が来てからは、いつもこう。俺は、薬が効きにくいのか、毎回辛い。

俺はΩだ。昨夜から、3ヵ月に一度の発情期がきた。

元々、医者の診断で、自分がΩだとは知っていたが、初めて発情期が来たのは高校3年の頃で、遅かった。そのせいか、20歳になった今でも薬が慣れないのか、効きが弱く、いつも苦しい思いをしている。

布団から手を出して、置き時計を見る。8時。

「学校...

今日は一限からある。俺の通う大学は、βΩが多いせいか、発情期で体調が悪い場合は、特別措置として単位を落とさないようにしてくれる。それでも、休むと授業について行けなくなるので、なるべく出席したい。

ゆっくりベッドから起き上がり、深く息を吸う。頭をすっきりするべく、シャワーを浴びる。クラクラする。後ろの穴に指を当てがうと、すんなりと受け入れた。

「は、あ、」

一回抜けば、少しは落ち着くかも。と自慰をする。精液を吐き出しただけで、身体を襲う欲情と熱は消えてはくれなかった。

 

「なんか、ちょっと良い匂いしねえ?」

隣に座った友人が、言った。大学の友人に、αはいない。と言うか、この学校にαはとても少ない。匂いを指摘した友人は、βだ。

「ごめん、それ、俺。」

体調の悪そうな俺を心配して、背中をさすってくれた。

Ωって大変だな。」

「多分、皆がこうじゃないと思う。薬が効く人は普通に生活してるし。」

「俺も、薬に慣れるまでの23年はキツかったな。」

Ωの友人が同意してくれた。

「チェリー、発情期来たの、遅かったんだっけ。」

「うん。だから、まだ抑制剤があんまり効いてくれなくて。」

「無理して来なくて良いのに。」

赤い顔でふうふう言っている俺を皆心配してくれた。

「でも、今日の一限は、休むとついて行けなくなるから。」

「でも、もう昼だし。一回帰れば?」

「や、大丈夫。午後も出る。」

そうは言ったが、今にも倒れそうな俺を友人は引っ張って保健室に連れて行った。

「頓服薬、持ってる?」

保健室の先生に言われ、鞄から取り出して、飲んだ。

「安定しないなら、無理しないほうが良いわよ。病院を変えてみるとか、薬も注射型の直ぐに効くやつもあるから。」

「注射、苦手なんです。」

ベッドで横になりながら、言った。

「苦手とか、言ってる場合じゃないでしょう。安定したらやめれば良いんだから、少し位、我慢するとかして、なんとかしないと。辛いのは貴方自身なんだから。」

その通りだな、と思った。

自分の為にも、色々試してみなければ、効くかどうかも分からない。

「避妊薬は?飲んでる?」

「いえ...

「処方して貰いなさい。抑制効かない馬鹿なαだって、世の中にはいるから。」

明日にでも病院に行きなさいね、と念を押された。

 

バイト先のコンビニに行くと、カリームが先にいた。

こんにちは、と声を掛けられたが、鼻をひくつかせると、直ぐに視線を逸らされた。

本人から聞いた訳じゃあないけど、カリームは、多分α。普段は優しくて、人懐っこいけど、俺が発情期の時は顔を見てくれない。俺の匂いが、嫌いなのかもしれない。少し落ち込む。

パソコンに向かっていた店長が立ち上がって、此方に気付いた。

「桜君、具合悪そうだね。大丈夫?」

平気です、と言うが、店長は俺の額に手を当てた。

「熱っぽいね。帰っても良いよ。」

店長は、俺の発情期がしんどいのを知っている。何度か穴を開けてしまった事があるので、本当は直ぐにでもベッドに横になりたいが、大丈夫です、と言って着替えた。

発情期の時は、客がαかそうでないかが、結構分かる。

αの客は、俺がレジを担当すると、匂いを嗅いで俺の顔を確認する。偶に口説かれる時もあるが、そう言う時は、必ずカリームが割って入ってくれる。それでも、カリームは絶対に俺を見ない。それが、悲しい。

店の外のゴミ箱を整理していると、男に声を掛けられた。

「すいません。先程、此処で煙草を買ったんですけど、袋に入ってなくて。」

「それは、申し訳ありません。」

頭を下げて、どの煙草ですか、と聞く。男はポケットから吸いかけの煙草を取り出して、この銘柄なんですけど、と言った。暗くてパッケージが良く見えない。近付いて、確かめようとすると、突然腕を掴まれ、引っ張られた。首の匂いを嗅がれて、気付く。この客、αだ。

死角に下がって、べろりと舐められた。

「こんな匂いさせといて、仕事しながら誘ってるんだろ。」

服に手を入れられ、背中を触られる。

怖い。気持ち悪い。声が出ない。

そのまま、その手をジーパンの中に入れてくる。

「っ、」

その時、黒くて大きな手が、男の腕を掴んだ。男は手の先を見上げる。

「何してますか。」

低い声。カリームだった。涙目で見上げると、目が合った。俺のその目を見て、カリームの顔が険しくなる。

「おい、こっちは客だぞ。」

威嚇する男の腕を握る力が強くなる。男は呻いた。

「やめてくれれば、僕も離します。」

男は俺から離れると、カリームも男の手を離した。男はそそくさと逃げて行った。

「有難う、カリーム。」

カリームは顔を逸らして、背中を向けた。

「サクラさん。」

背中越しに名前を呼ばれる。

1人になっては、いけません。」

「うん、ごめん。」

店に入って、明るい所で見ると、掴まれていた腕に少し痣が出来ていた。それに気付いたカリームは、店長を呼んで、俺をバックヤードに連れて行く。救急箱を取り出して、俺を椅子に座らせて、湿布を貼ってくれた。

目線は、ずっと腕。顔は見てくれない。

出来ました、と言って立ち上がるカリームの服の裾を掴む。

「カリーム、」

「痛いですか?」

「違う。そうじゃなくて、」

息を吸う。

「俺のお願い、聞いて。」

カリームの肩がぴくりと動く。匂いがキツイのか、手で鼻を隠す。

「俺の顔、ちゃんと見て。」

逸らしていた目を合わせてくれた。少し、眉をしかめているが、顔を見てくれた。

「それから、」

声が震えてきた。しっかりしろ、と自分を奮い立たせる。

「抱き締めて、ほしい。」

その言葉と同時に、カリームは俺を椅子ごと押し倒した。驚いて、カリームを見ると、ふう、ふう、と息が荒い。

そっと頬に触れようとすると、手を叩かれた。

「他の人にも、言ってますか。」

怒っているような声で、責められる。首を振って、答えた。

「違う。カリームだから、カリームになら、俺、噛まれても良い。」

俺の肩に顔を埋めて、息を吸い込んだ。歯が当たる感触があったが、カリームは噛まずに首筋を舐めた。それから、耳元で低い声で言う。

「ヒートでも、そんな事、言ってはいけません。」

「発情期のせいじゃ、ないよ。カリームが、好きだから。」

そう言うと、カリームは俺の顔を見て、キスをした。

「桜君。」

突然、バックヤードの扉が開き、店長が入ってきた。慌てて起き上がると、カリームの頭にぶつかった。

「ご、ごめん。」

「大丈夫です。」

にっこりと笑うカリーム。

「今日は早上がりして良いよ。何かあると危ないから、シャフール君、送ってあげて。」

はい、と返事をすると、店長はにやっと笑って、程々にね、と言い残し扉を閉めた。

カリームと2人、顔を見合わせて、笑った。

 

カリームに送ってもらい、アパートに着き、部屋の扉を閉めると同時に、どちらからともなくキスをした。舌を絡ませて、お互いの唾液を吸うように。息継ぎに少し離してから、もう一度キス。

腹部にカリームのものが当たる。その大きなものが、勃っているのが分かる。

カリームは唇を口から耳、首筋へと移動させて、発情期の匂いを吸い込みながら舐め上げる。

「サクラさん、良い匂いです。」

その言葉に、驚いてしまった。

「俺の匂い、嫌いなんじゃなかったの。」

「サクラさんの香り、僕には刺激が強すぎました。いつも、たくさん我慢していました。」

ごめんなさい、と言って再びキスをする。我慢する程、良い匂い。それって、

「カリームも、俺の事、好きって事?」

Tシャツを捲って胸元を触りながら、カリームは低い声で言った。

「好きです。ずっと。ヒートじゃなくても、サクラさんからは、良い匂いがしました。優しくて、魅力的で。サクラさんが僕を好きになる前から、僕はサクラさんが好きです。」

嬉しくて、抱き付いて、その逞しい胸に顔を埋めた。そのまま、カリームの下半身を撫でる。ジーパンのファスナーを下げて、下着越しにその大きさを確認する。

勃ってる。俺で、興奮してくれている。

蹲み込んで、下着をずらし、カリームのものを口に含んだ。

「サクラさん、」

カリームは俺の肩を掴んで、離そうとする。裏筋をゆっくり舐めて、垂れる我慢汁を溢さないように吸い上げる。舐める度にびくり、びくりと反応する。上目遣いでカリームを見ると、いつもと違う、雄の顔になっていくのが分かる。

喉の奥まで入れて、口の中で舌を動かすと、カリームは口腔内に吐き出した。口から溢れる程の量に、飲み込みきれず、下まで垂れた。

「凄い。」

カリームの顔を見ながら、口の端に付いた精液をぺろりと舐めた。

「こんなに中に出されたら、今の俺なら妊娠しちゃうね。」

その発言がカリームを刺激したのか、俺を押し倒して、服を脱がせ、胸に吸い付く。片手で下の穴を弄り、濡れたそこに指を入れる。簡単に受け入れ、2本、3本と増やしていく。中で暴れる指に反応して、俺の身体は仰反る。

「はっ、や、駄目っ、」

「駄目は気持ち良い、の意味です。」

すっかり濡れきっている穴からは、卑猥な音が響く。指を抜かれると、そこはひくひくと震えて、別のものを欲しがった。

「カリーム、早くっ、」

カリームは鞄からゴムを取り出すと、歯で切って開け、自分のものに被せた。ぴたりと当てがい、ゆっくりと挿入れていく。

「う、あ、」

凄い圧迫感。目の前がチカチカする。

「サクラさん、セックス、初めてですか?」

「う、うん、」

カリームは笑顔のまま、ずっ、と奥まで突き上げた。俺の身体はびくりと跳ねる。

「サクラさんの初めてが僕で、嬉しいです。」

腰を前後に動かし、中を刺激する。突かれる度に、俺のものから精液が少しずつ溢れる。動きながら、胸の突起を摘まれると、気持ちが良くて穴が締まる。その度にカリームのものも大きくなる。

「カ、リーム、カリームっ、」

カリームは俺の上擦る声を聞こうと、顔を近付ける。

「首っ、噛んでっ、俺をカリームのものにしてっ、」

しかし、カリームは首を舐めたり、少しだけ歯を立てたりするだけで、噛んではくれなかった。

「なん、でぇっ、」

涙目で懇願するが、カリームは唇に優しくキスをして、俺を諭すように言った。

「もう少し、大人になってからです。」

「もう大人だよぉっ、酒も飲めるもんっ、」

「でも、まだ大学生です。」

「でもぉっ、」

キスで口を塞がれた。涎が溢れる。

「卒業したら、です。それまで我慢です。」

腰の動きを早めながら、言う。

「それまでは、ヒートの時は、僕がサクラさんとセックスします。」

それからまたキスをして、俺が果てたと同時に、カリームの身体が震えると、俺の中に熱いものがドクドクとゴム越しでも入ってくるのを感じた。

...約束、してくれる?」

カリームの青い瞳に吸い込まれそうになりながら、尋ねた。カリームは優しく笑って、はい、と短く返事をした。

 

それからは、不思議と発情期が辛くなくなった。抑制剤も効くようになったのか、身体が楽になった。

それでも、カリームは毎回心配してくれて、偶に寝込むとお見舞いに来てくれた。

「あの、さ。」

持ってきてくれたアイスを食べながら、カリームに言った。

「もうすぐアパートの更新でさ、それで、その、」

「一緒に住みますか?」

笑顔のカリームに、こくりと頷くと、抱き締められた。