12.危機感

 

 

「んっ、ふっ、」

キスをしながら、胸の突起をコリコリと捏ねられる。舌が激しく絡む度に、胸元まで涎が垂れ、それで濡れた突起が敏感に反応する。

下半身の勃ち上がったものをカリームの立てている膝に擦り付ける。何度もいっているせいで精液が垂れて、カリームのジーパンは、滲んで色が変わっているが、そんな事を気にせず腰を動かし続ける。

カリームは片手で俺の後ろの穴へと指を当てがい、ぐちゅぐちゅと音を立てて中を解す。指を曲げられると、びくりと身体が仰反る。

それでも、もっと、ずっと、激しく、満たされたくて、首に腕を回してキスを続けた。

 

どうして、こんな事になったんだっけ。

 

今日は朝からついていなかった。

カリームは大学に行く前に郵便局に寄るから、と言って先に家を出た。

俺は2限からだし、と余裕ぶっていたら、ふと今日が期限の課題が残っている事に気付き、慌ててやったが、お陰で遅刻してしまった。

昼は1番好きなきつねうどんが売り切れており、ではラーメン、と思っていたら、前の人が食券を買った途端に売り切れ。

午後の授業では一瞬寝てしまって、途端に指されて答えに慌てた。

運がない時って、とことんついてないもんだ。

早く帰って、カリームと一緒に晩飯の準備でもすれば、気が紛れるかも、と思っていたら、今日はゼミの飲み会がある事を知った。いや、聞いてない。同じゼミの宮本さんに声を掛けられなければ、知らずに終わっていた。

宮本さんは、黒髪ロングの、色の白い美人で清楚な女の子。学科が一緒で、時々バイト先のコンビニにも来てくれる。英語が堪能なので、カリームとも良く話す。一部では、SMクラブで働いているとか噂があるが、人当たりも良く優しいのだから、そんな噂は関係無い。趣味は人それぞれだし、普段は温厚で社交的なのだから、俺は特に気にならない。

授業があると悪いので、カリームにはメールで伝えた。

うちのゼミの飲み会は、基本的に教授は来ない。理由は、新婚だから。その為、セッティングするのは先輩達だ。

大学近くの居酒屋で、乾杯の合図と共にビールを飲み交わす。テーブルにはサラダや唐揚げ、ポテトと言った定番料理がずらり。

相変わらず酒の弱い俺は、ちびちび飲みながらポテトをつまむ。宮本さんが、わざわざ俺の隣に来てくれた。

「桜君、カリーム君と、ルームシェアし始めたの?」

思わずビールを吹きそうになったが、何とか飲み込んだ。

「な、んで知ってるの、」

「カリーム君から、さっきメール来たの。桜君の様子はどうかって。」

いつの間にアドレス交換したんだ。宮本さんは、いつもカリームとは英語で会話しているから、俺には分からない。

「心配してるよ。飲みすぎないで、って。」

「うん、有難う。気を付ける。」

それから宮本さんは、向こうで呼ばれて行ってしまった。

俺は、ゼミであまり親しい人がいない。やっぱり、早く切り上げて、帰ろう。そう思っていたら、すっと隣に座る影。

「桜、楽しくない?」

大学でも人気のイケメン、浅沼先輩がビールを注いでくれた。

「すいません。」

「謝んなくて、良いよ。酒弱いんだもんな。」

「はい。でも、ビールは好きですから、大丈夫です。」

「そう?あ、そこの唐揚げ取ってくんない?」

言われて、少し遠くにあった唐揚げを取りに行った。戻って来ると、またビールが注がれていた。気が効く人だなあ。少しずつ飲むのは悪い気がして、ぐいっと一気に飲み干した。

「そんな、慌てなくても。」

笑いながら俺を見る浅沼先輩。笑顔も格好良い。しかし、それで思い出すのはカリームの笑顔だった。

カリームは、純粋な可愛い笑い方をする。かたや浅沼先輩は、何かを企んでいるような笑顔。人気があっても、あまり好きになれない。何処か怪しい気がしてしまう。

「卒論の課題、決まったんですか?」

「んー、まあ、それなりにな。」

4年生は大変ですね。」

「お前、それ来年、後輩に言われるぞ。」

ニコニコして、俺の話を聞く。時折、腕や膝に触れられる。つーっと太腿をテーブルの下で撫でられた。びくり、と身体が反応してしまう。顔を近付けられて、耳元で小声で言われる。

「可愛いな、桜は。」

何故かどんどん顔が赤くなり、息が浅くなる。身体が熱くなってきた。飲みすぎたのだろうか。 「す、いま、せん。ちょっと、トイレ。」

「一緒に行こうか?フラフラしてんぞ。」

「大丈夫、です。」

携帯を持って、トイレに行き、個室に入った。急いで電話をする。手が震えて、上手くタップ出来ない。

呼び出し音が暫く鳴った後、カリームが出た。

「サクラさん?」

「カ、リー、ム、」

はあ、と息を吐いて話し始める。

「迎えに、来て欲しい。なんか、変なんだ。」

電話越しに、車の音と人の声が聞こえる。カリームは、外にいるようだ。夕飯の買い出しだろうか。

「帰りたい。カリームと、」

身体が火照って我慢出来ず、言葉にする。

「セックスしたい。」

下半身、特に後ろが疼いて堪らない。早く、カリームとしたい。

その時、個室の扉をノックされた。

「桜?」

浅沼先輩の声。心配して、様子を見に来たのだろうか。

「サクラさん?」

携帯からはカリームの呼ぶ声。

「具合悪いか?開けてくれ。俺、吐き気止め持ってるから。」

「ちょっと、待ってください。」

なるべく外に聞こえないように、小さな声でカリームに言う。

「大学の近くの、『月灯り』って店に、いるから。お願い。」

「すぐに行きます。」

電話を切って、浅沼先輩に返事をする。

「大丈夫、です。ちょっと、飲みすぎたみたいで。」

「水、持ってるから、此処開けて。薬、飲んだ方が良いぞ。」

深呼吸して、鍵を外してそっと扉を動かすと、いきなり勢い良く開かれた。出口を塞ぐように、浅沼先輩が立ち塞がった。後ろ手で鍵を閉め直された。

「せ、ん、ぱい...?」

「桜、お前、無防備すぎ。」

肩を掴まれ、蓋の閉まった便座に座らされ、首を舐められた。

「ひ、あっ、」

思わず、声が出る。

「本当、可愛いな。桜は。」

唇を塞がれ、舌を絡めて来る。力が入らず、抵抗出来ない。何故。

「薬、効いてるみたいだな。」

何の事か分からず、虚な目で浅沼先輩を見上げると、あの笑顔。

「ビールに混ぜたんだ。媚薬、ってやつ?」

合点がいった。それで、こんな状態になってしまったのか。

服を捲られ、胸を舐められる。快感ではなく、気持ち悪さが勝って、腰が引ける。

「な、ん、で、」

「何でって、」

突起を口に含んだまま、答えてくる。

「桜が、可愛いから。」

「か、わいく、ない、ですっ、」

「可愛いよ。」

「でも、こんな、こと、」

「俺に靡かない桜が悪い。」

思い切り吸われ、びくりと反応してしまう。

「や、」

「もう遅いよ。」

何とか小さな声で、呟いた。

「カ、リーム、」

突然、個室の扉が鍵ごと壊されて、蹴破られた。息を切らせて立っていたのは、カリームだった。

家からこの居酒屋まで、歩いて20分はかかる筈なのに、早すぎる。

目の前に現れた大きな外国人に驚いた浅沼先輩は、俺から手を離して棒立ちになった。

カリームは俺の手を握り、立ち上がらせ、浅沼先輩を睨みつけて、ウルドゥー語で何かを言ってその場を後にした。

居酒屋の外に出ると、カリームは俺を抱き締めた。

「サクラさん、怪我、ありませんか。」

「ん、だい、じょぶ。それより、なんで、」

早いの、と聞く前に、カリームは答えた。

「サクラさんから電話が来る前に、ミヤモトさんからメール来ました。サクラさんが危ないから、すぐに迎えに来たほうが良い、と。」

宮本さん、気付いてくれていたのか。感謝しかない。今度、何かお礼をしよう。

「何かされましたか?」

「んと、なんか、くすり、飲まされた、みたい。」

ふわふわする頭。カリームを見ると、後ろがさらに疼いて仕方ない。

「カリーム、」

カリームの服の裾をぎゅっと握って、真っ赤な顔で呟いた。

「だっこ、して。早く、帰りたい。」

カリームは俺を抱き上げて、タクシーを呼び止めた。

 

それから家に帰って、玄関でキスをして、今に至る。

やり始めてからもう1時間は経っている。それでも、俺の身体の熱は治まらない。

カリームは、いまだに後ろに挿入れずに、俺にされるがまま、痴態を見ながら時々触ってくれるくらいだ。

「カリームっ、もう、」

「出して良いですよ。」

何度目が分からないが、カリームの膝の上で1人でいってしまった。

俺は全裸、カリームは上半身だけ脱いでいる。その大きな胸に顔を埋めて、強請る。

「なんっ、でぇっ、挿入れてくれっ、ないっ、のぉっ、」

「今日は、お薬屋さんに行っていません。コンドーム、ありません。今日のサクラさん、たくさんしないと満足しません。」

「いいよおっ、中にっ、いっぱい、頂戴よおっ、」

「身体に良くありません。」

「だいじょぶっ、欲しいよおっ、カリームの、欲しいっ、」

再びキスをして、涙目で訴える。

「お願いっ...!」

その顔を見たカリームは、俺を押し倒して、ジーパンを脱ぎ始めた。露わになったそれを見て、期待が膨らむ。そっと触って、自分の穴に近付ける。

「サクラさん。」

耳を舐めながら、カリームが囁く。

「後から嫌って言っても、僕、我慢出来ません。分かりますか?」

「や、じゃないっ、カリーム、早くっ、」

そのまま、一気に突き上げる。奥まで届く圧迫感に、快感が増す。

「はっ、あっ、」

「ゆっくり、動きます。」

「や、だ、」

カリームの腕をぎゅっと掴む。

「乱暴に、してっ、俺が、壊れるくらいっ、」

「駄目です。」

「駄目は、良い、でしょっ、」

その言葉でスイッチが入ったのか、激しく腰を動かし始めた。抜いたと思ったら、そのまま奥まで突く。それを繰り返される度に、俺は潮を吹いた。

「ひっ、あっ、」

「後ろ向いた方が、奥まで入ります。」

そう言われて、体勢を変えると、本当に前からよりも奥まで入ってくる。

「あ"っ、う"っ、」

「サクラさん、いつもより気持ち良さそうです。」

「き"っ、もちい"っ、きもちいよっ、頭、おかしくなるっ、」

突かれる度に精液と潮が溢れて、シーツを汚す。ベッドはぐちゃぐちゃのびしょ濡れだ。

「指、舐めてください。」

口にカリームの指を持ってこられ、それを口に含む。しゃぶると卑猥な音が響く。それが更に興奮を煽る。

「サクラさん。」

背中越しに耳元で名前を呼ばれて、反応してきゅんと穴が締まる。

「中に、出します。」

「ん"っ、」

どくり、と中に熱いものが流れてくる感覚。押し寄せる快感。全てを絞り出そうとする穴。ゆっくりと抜かれると、とぷりとカリームの精液が溢れ出た。

「サクラさん、少し休んだ方が、」

カリームの口を自分の唇で塞いだ。

「やだっ、」

涎が糸を引く。熱は治るどころか、増している。

「もっと、してっ、」

カリームを押し倒して、自分から上に乗って、挿入れた。

 

「ガッツリ反省させておいたから!」

後日、宮本さんにお礼のお菓子を渡しに行くと、言われた。

あの後、浅沼先輩は宮本さんを誘ったらしい。そのままホテルに行ったが、浅沼先輩は抱くどころか、逆に宮本さんにアナル開発をされてしまったと言う。SMクラブで働いていたのは、嘘ではなかったようだ。

浅沼先輩が、何も知らない後輩に男女問わず手を出す事は専らの噂だったらしく、俺が狙われていると気付いた宮本さんは、すぐさまカリームに連絡を入れてくれていたのだった。

「もう浅沼先輩、後ろも弄らないと満足出来ない身体にしておいたから

宮本さんには感謝しかない。彼女の見た目に反する男前な性格に、今回は救われた。

「それよりも、さ。」

宮本さんはすすっと近寄って、小さな声で聞いてきた。

「媚薬プレイ、正直どうだった?」

「んなっ、」

真っ赤になってしまった俺を見て、にんまりと笑う彼女。黙り込んでいると、肩をぽんと叩かれて、言われた。

「アブノーマルな事したかったら、私に言ってね。それなりに道具は揃ってるから

絶対に敵に回したくないタイプだな、と悪いが恐怖を感じた。

綺麗なロングヘアをなびかせて、去っていく宮本さんは、とても格好良かった。