10.大学生×留学生2
ポストを覗くと、近くに新しく出来たスーパーのチラシと、不動産屋のチラシ。それから、アパートの更新葉書が入っていた。
そういや、そんな時期か。葉書を見ながら部屋に入る。桜も、更新が近いから金が必要だとか言って、今朝もバイトに入っていたな、と思い出す。引っ越すかどうか考えている、とも言っていたな。桜のアパートなんて、行った事無いから知らないが、多分この部屋と同じく広くは無いだろう。学生の一人暮らしのアパートなんて、ワンルームで充分だ。
葉書をテーブルに置いて、冷蔵庫から茶を取り出すと、玄関のチャイムが鳴った。覗き穴から見ると、190センチの黒い肌のパキスタン人。アランだ。扉を開けて、迎え入れる。
中に入った途端、抱き付かれた。胸がデカくて苦しい。
「コウイチー!」
毎回こうだ。名前を呼んで、抱き締められる。悪い気はしないが、正直鬱陶しい。
「この間、会えないって言われたから、寂しかったよー!」
「いや、それ日曜だろ。今日まだ火曜だから。前に会ってから1週間も経ってない。」
「時間の長さは関係無いよ!俺は、毎日でもコウイチに会いたい。」
アランは、今迄色んな男と付き合っていたようだが、抱かれたのは俺が初めてだったらしい。そのせいなのか、矢鱈と俺に執着している。
そんな俺も、色んな女と付き合ったが、アランとは半年程続いている。こんなに長いのは初めてで、自分でも驚いている。
執着は強いが、アランは俺の嫌がる事は決してしない。会えないと言う日に突撃してきたり、嫌だと言う日に無理にセックスする訳でも無い。メールを半日放っておいても、怒る事もない。俺の都合でデートして、セックスして、連絡する。俺としては、かなり楽だ。
「日曜は、弟達が来てたから。」
その言葉に、アランが目を丸くした。
「コウイチ、弟いるの?」
言ってなかったか。
「2人いるよ。」
写真!とせがまれる。取り敢えず、玄関で会話していたので、中へ促す。
クッションを出して、座らせてやる。アランは、早く写真が見たいらしく、ウズウズしている。携帯のフォルダを漁って、弟の写真を見せる。
「こっちが悠二、こっちは三輝。」
「ユウジと、ミツキ。」
俺より幼いが、俺とそっくりな2人の写真を見て、名前を呼んだ。
「可愛いね。何歳?」
「17と、13。」
へえ、と写真に釘付けになるが、ふと顔を上げて俺を見る。
「でも、コウイチが1番格好良いな。」
有難う、と礼を言って、グラスを出して茶を注いでやる。
「子ども生まれたら、俺そっくりになりそうだよな。俺ん家、皆父親似だから。血が濃いんだよ。」
その言葉に、アランが固まった。
「コウイチ、」
「うん?」
「コウイチ、結婚するの?」
「いや、将来的な話だよ。俺、長男だし。今時そんなの拘る事も無いけど、うち酒造屋やってるから。」
見るからに落ち込むアラン。何だ。言いたい事があるなら、はっきり言え。
アランは、俺の膝をそっと触って、小さな声で言った。
「俺と、別れるの?」
「は?」
「だから、将来結婚するなら、コウイチは俺と別れるの?」
「いや、今の所そのつもりは無いけど。」
膝に置いていた手を股間に移動させて、揉み始めた。
「おい。」
手を掴んで、止める。
「今はそんな気分じゃ、」
「俺が妊娠したら、コウイチはずっと俺の側にいてくれる?」
「は?」
俺の手を振り解き、ジーンズを下ろして俺のものを外に出し、跨った。自分で穴を解しながら、そのまま挿入れる。
「ば、か、やめろっ。妊娠なんて、する訳ないだろっ。」
しかし、アランは腰の動きを止めない。必死で振る。絞り出すように、穴を締め付ける。
「孕ませてっ、俺をっ、妊娠させてっ、」
そんな事、不可能に決まっているのに、俺の中の何かがぷっつりと切れた。アランを押し倒し、俺が上になる。首筋を舐めながら噛みつくと、アランは射精した。
「孕ませてほしいんだろ?」
噛みながら、奥を突き上げる。
「妊娠したいんなら、射精はするな。出して良いのは、潮だけだ。」
アランは、必死に首を縦に振った。
ぐり、と腰を捻ると、アランからは透明の液体が噴き出た。
噛み付く度に、潮を吹く。面白くなって、腰が激しく動く。
「去勢でも、しようか。」
そう言って、テーブルに置いてあった鋏に手を伸ばすと、アランは顔を青くしたが、それに反してものはどんどん勃ち上がった。それを見て、思わず笑う。
「ははっ。」
耳を噛みながら、出来るだけ低い声で囁いた。
「やっぱりお前、相当なドMだな。」
3回やって、力尽きた。アランは俺よりイってる筈なのに、もっと、と強請られたが、俺はもう動く事も億劫になってその場に寝転んだ。外国人の体力は底無しだな、と思う。
愛おしそうに腹をさすっているアランに、声を掛ける。
「本当に妊娠なんて、しないだろ。」
「分かってる。」
アランは振り返って、寝ている俺の顔を覗き込んだ。
「でも、さ。コウイチが一瞬でも、俺の子ども欲しいって思ってくれたのは事実だろ?だから、それが嬉しい。」
頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った。
「俺、ずっと一緒にいたいんだ。コウイチの隣で、いつも笑っていたい。」
「俺なんかが好きとか、趣味悪すぎ。」
「そんな事ないだろ。」
そう言って、キスをする。
「コウイチは、俺なんか、とか、性格悪い、とか自分の事卑下するけど、俺としてはコウイチは最高の男だと思う。」
「去勢しようとしたのに?」
それを聞いて、アランは真っ赤になった。
「ドSとドMで、良い関係かもな。」
首の噛み跡を指でなぞりながら、言った。それからゆっくり起き上がって、アパート更新の葉書を見る。
「...引っ越そうかなあ。」
え、とアランも起き上がる。
「いや、更新しなきゃいけなくて。お前、声でかいだろ。」
此処壁が薄いから、と付け加える。
「店長が時給少し上げてくれたし、もう少しちゃんとした部屋に住もうかな。」
一緒に入っていた不動産屋のチラシをめくる。
アランは、すすっと隣にくっついて来て、俺をチラチラと見る。
「俺のアパートメント、広いよ。」
「ああ、あのマンションな。」
「マンションじゃない。アパートメント。」
そう言えば、外国ではマンションもアパートって言うんだっけ。マンションは、豪邸の意味、と英語の授業を思い出す。
「あそこ、家賃高いだろ。」
「でも、防音しっかりしてるし。」
「俺の一月分の給料、全部飛ぶよ。」
「広いから、部屋余ってるんだ。」
「ふーん。」
駅徒歩15分。ワンルーム。新築。でも実際見てみないと分からないよな、と考えながらチラシを見る。
アランが詰め寄る。
「誰か一緒に住んでくれたら、」
「シャフールと住めば?」
「コウイチ!」
ぽかぽかと叩かれた。何なんだ。見ると、アランの顔が赤い。頬を膨らませている。
「気付け、馬鹿。」
馬鹿とは失礼な。
「何が。」
「...一緒に、住まないかって事。」
「は、」
思わず、声が詰まってしまった。
「何で即答しないんだよ!」
「いや、あの、」
煮え切らない俺に、アランが詰め寄る。
「俺と一緒じゃ、嫌?」
「や、俺、1人にならないと勉強出来ないし。」
「部屋、余ってるんだって。コウイチのパーソナルスペース、あるよ。」
「人の分まで飯、作れないし。」
「俺が作るよ。コウイチの為に。」
「家賃、」
「3分の1で良いよ。殆ど俺が使ってるから。」
顔を近付けるアランから、目を逸らした。
「まだ、早いと思う。」
「...そっか...」
暫く、沈黙が流れた。
学校のお昼休み。食堂の角のテーブルで、アランがとても落ち込んでいます。話し掛けてみます。アランとは、ウルドゥー語で話せるので、簡単ですね。
「アラン、どうしたの?」
アランはゆっくりと、頭を上げて、ため息を吐きました。それから、頭を抱えています。
「早まった、かも。」
アランもウルドゥー語で答えてくれました。何かあったんでしょうか。
「ユガミさん?」
アランが小さく頷きました。
「喧嘩でもした?」
「喧嘩っていうか、」
また、ため息を吐きました。幸せが逃げてしまいます。ため息ばかりは、駄目です。
「コウイチに、一緒に住もうって言ったら、断られた。」
「何で?ユガミさんと、仲良かった風に見えたけど。」
「なんか、色々理由付けて、まだ早いって。」
アランがユガミさんと恋人になってから、6ヶ月は経ちます。アランがそんなに同じ人を好きなのは、とても珍しいです。
「カリームは、サクラと住もうとか、思ったりする?」
「それは、勿論。サクラさんと一緒に住めたら、幸せだろうなって考えてるよ。」
「俺も、コウイチがいつも一緒だったらって思ったんだけど、コウイチはそうじゃないのかも。」
3回目のため息。アランは、たくさん悩んでいます。
「それはさ、」
僕は、アランに厳しく言いました。
「日頃の行いがあるんじゃない?どうせ、また浮気してるんだろ。」
「してないよ。」
アランは、真っ直ぐ前を見て、言いました。
「コウイチと付き合ってからは、1度も浮気してない。」
「本当に?」
「うん。」
「あの、誰にでも声を掛ける、」
「おい、」
「本能と性欲で生きてる、」
「ちょっと、」
「脳味噌が下半身にあるんじゃないかっていうアランが、浮気してないって?!」
「...カリーム、お前、サクラの前では猫被ってるだろ。」
猫なんて被っていません。日本語難しいから、アランみたいに話せないだけです。
「まあ、それは冗談としてさ、ユガミさんは、まだ心の準備が出来てないんじゃないかな。きちんと話せば、分かってくれるよ。」
「そうだな。ちゃんと、俺の気持ち伝えるよ。」
有難う、と言って、アランは僕のカレーライスを一口食べました。
昼休みに食堂に行くと、あの湯上が頭を抱えて唸っていた。気になって、友人と離れて湯上に近付く。
「どうした?」
ラーメンを置きながら話し掛けると、ゆっくり顔を上げた。
「桜。」
「何か悩み?」
湯上はため息を吐いた。
「やっちゃった、かも。」
「アランの事?」
なるべく小声で聞いた。湯上は小さく頷いてから、話し出した。
「なんかさ、将来的な話をしたんだよ。俺、長男だからいずれは結婚して子ども作って、とか。」
湯上の家は、確か酒を作る仕事をしているって、聞いた事がある。
「でも、お前弟いなかったっけ?」
「うん。2人。」
「そっちが継ぐとか、出来ないの?」
「出来るよ。でも、何となく、さ。そう言う雰囲気ってあるじゃん。」
そんなものだろうか。俺も長男だけど、2人目だし、親はサラリーマンだから、気持ちはよく分からなかった。
「それで、アランがムキになって、自分を妊娠させろとか言って。」
俺は顔が赤くなるのを感じた。そんな恥ずかしい事、アランは言ってしまうのか。
「その後、何故か一緒に住もうって話になって。」
「それで?」
「まだ早い、って言った。」
湯上は再びため息を吐いた。幸せが逃げるぞ。
「2人って、その、付き合って、どれくらいだっけ?」
「半年くらい。」
驚いた。
「半年も?こんな淡白で、」
「おい、」
「誰にでも塩対応で、」
「ちょっと、」
「無趣味で何事にも興味を示さない湯上が、アランと半年も付き合ってんの?!」
「...桜って、結構言うよな。」
ははは、と笑って頭を掻いた。
「まあ、冗談はさておき、早い事はないんじゃない?アランって、確かマンションに住んでたよね?」
「ああ、うん。」
「そこで暮らすなら、あんまり環境も変わらないし、良いと思うけど。」
湯上は少し考えて、そうか、と言った。
「確かに、言われてみればそうかも。」
俯いていた顔をぱっと上げて、少しすっきりしたような声を出した。
「そうだよな。もう一度、話してみるわ。」
それから俺のラーメンに乗っていたチャーシューを食べて、有難う、と言った。おい俺のチャーシュー返せ。
授業が終わると、大学を飛び出して、アランの学校に向かった。すると、向こうからアランが息を切らせてやってきた。
お互いに足を止め、荒い息を整える。
「「ごめん!」」
声が被った。
「アラン、俺の事考えて一緒に暮らそうって言ってくれたのに、俺は自分の事しか考えてなくて。」
「コウイチは悪くない。俺こそ、コウイチの気持ち考えなくて、自分勝手だった。」
アランは俺の手を握って、目線を合わせた。
「コウイチが、良いって言うまで、俺待つよ。」
俺は首を振って、アランを見た。
「待たなくて、良い。暮らそう。一緒に。アランのマンションに、俺も住まわせて。」
アランは驚いた後、俺を抱き締めた。
「ずっと?」
アランが尋ねる。
「うん、ずっと。」
俺は答えた。
それから、人目も憚らず、キスをした。
「でも、コウイチ長男だから、」
「関係無いよ。弟達が継げば良いんだから。」
2人で手を繋いで、俺の家に帰った。引越しの準備をする為に。
これからの未来が、こんなに楽しみになったのは、初めてだった。
「見た?」
「見ました。キスしましたね。」
「湯上って、あんなに熱い奴だったんだ。」
「サクラさん。」
「うん?」
「僕も、サクラさんと暮らしたいです。」
「え、」
「嫌ですか?」
「い、やじゃない、けど、」
「駄目ですか?」
「う...そんな目で見るなよ!分かった!分かったから!今度一緒に不動産屋行こう!」
「大好きです!サクラさん!」
「此処でキスはやめて!」
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