殺し屋×デモリーダー【短編1】
「イーサン、なんで脱がないの…?」
イーサンと結ばれて、いざ初めてセックスをしようという時、イーサンは俺の事は裸にした癖に、自分は頑なに脱がなかった。
キスをされ、背中を撫でられながら俺がイーサンの服に手をかけようとすると、イーサンは慌てて俺の手を叩いた。
付き合ってから、イーサンが俺に手を出すことなんて殆ど無かったので、驚いた俺は側にあったクマのぬいぐるみを抱いて、暗い顔で俺から目を逸らすイーサンを見ていた。
まずい事を聞いてしまっただろうか。もしかしたらイーサンには、身体的に何かしらのコンプレックスがあるとか、そういう事かもしれない。
「…ごめん。」
「なんで貴方が謝るんですか。」
ふ、と優しく笑いながら、俺の頬を撫でた。
「貴方は悪くない。」
「でも…、」
ぬいぐるみを抱く力が強くなるのに気付き、俺の手を取った。
「今迄、」
イーサンはゆっくり、しかしはっきりと話し始める。
「セックスの時に、こんなに気にしたことはなかった。でも、貴方に幻滅されたくないんです。したく無い訳じゃありません。ジェイク、俺は貴方を抱きたい。愛しているから。」
改めて言われて、顔が赤くなるのを感じた。ずるい。イーサンは、顔が良い。俺の一目惚れだ。もちろん性格だって申し分ないけれど、その格好いい顔でそんな事を言われると、胸が高鳴ってしてしまう。
「今更、嫌いになんてならないよ。」
恥ずかしくてぬいぐるみで顔を隠しながらそう言うと、しばらく黙った後、イーサンはゆっくりと服を脱ぎ始めた。
その身体には、無数の傷跡。殺し屋の仕事の際についたものだ、と言った。しかし、背中の一番大きな火傷の後は、それらよりもずっと古いもののようだった。そっとそこに触れてみると、ピクリ、と肩が反応した。俺の腕を掴んで、それ以上触らないように止める。
「そこは、駄目です。」
「な、んで、」
聞いてはいけない気がしたのに、好奇心には勝てなかった。イーサンは顔を顰めたが、深く息を吸うと、ゆっくりと話しだした。
「…父親に、やられたんです。躾だとか言って。」
イーサンが、そんな家庭に育ったなんて知らなかった。いや、俺は結局、イーサンのことは何も知らないんだ。イーサンは俺のことをなんでも知っているのに。少し悔しくて、なんだか情けなくて、恋人なのに何も出来ない自分に嫌気が刺した。
そんな俺の心を察したのか、ふわりと軽く唇を重ね、俺の肩に顔を埋めた。
「知らなくて良いんです。俺の過去なんて。良いものじゃない。」
「でも、知りたい。イーサンの事、俺はなんでも知りたいよ。」
「面白くもない話ですよ。」
「それでも、良いよ。そんな事で幻滅しない。過去に何があったって、今目の前にいるイーサンが本物だろ?色んなものを乗り越えてきた、そんなイーサンが好きだよ。」
「そんな格好良いもんじゃないです。」
肩が濡れている気がした。そっと頭を撫でてみると、イーサンは少し震えているようだった。
「いつか、話します。それまで待ってくれますか?」
「うん。」
待つよ。いつまでだって、待つ。俺たちにはこれから先、たくさんの時間があるんだから。
有難う、という言葉と共に、優しくキスをしてくれた。イーサンの頬に、涙の筋が見えたけれど、俺は黙って首に腕を回し、出来るだけイーサンの身体に触れられるように、ぬいぐるみを横に置いた。
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