短編.7
朝の校門前。見えるのは、肉、肉、肉。
人が皆、肉に見える。俺はどこかおかしいのだろうか。
「おはよう、花。」
肉が俺に元気に挨拶をする。誰だ。肉は肉か。
「浮かない顔してんな。もしかして、また叔父さん?」
「あー…、うん…。」
最近、叔父さんとは進路のことで揉めている。俺は肉屋をやりたいけれど、おじさんは大学に行って社会人になれと言う。叔父さん以外の人間が肉にしか見えないのに、どうやって世渡りすればいいのか。でも、それを叔父さんに言ったところで困らせてしまうだけだ。これは、俺がちゃんと解決しなきゃいけない。
「そんなに花の将来に理解のない叔父さんなら、いっそ大学に行って一人暮らししちゃえばいいのに。」
他の肉が言う。
「そんなの嫌だよ!」
思わず大きな声を出してしまった。肉が皆こちらを見る。慌てて下を向き、何でもないフリをした。
「叔父さんの事が、嫌いなわけじゃいんだ。」
小さな声で、そう言うと、肉は顎に手を当ててふむ、と考える。その仕草もなんだか美味しそうで、唾を飲んだ。
「でも、いつかは離れなきゃいけないだろ?」
「何で。」
「だって、」
肉は俺の肩をポンと叩いた。
「叔父さんだっていつまでも独身じゃないだろうし、花だっていずれ彼女とか出来たら、」
「彼女なんていらない。叔父さんも、結婚なんてしないよ。」
「そうかなあ。」
表情は分からないが、声色から笑っているのは分かった。花はウブなんだよ、とか、女の魅力が分からないなんて子供だな、と言う馬鹿にした声。
女の魅力なんて、知らなくていい。叔父さん以上に魅力的な人なんて、この世にいる訳がない。叔父さん以上に色気のある人がいるなら、出してみろ。俺が欲情するか、試してみればいい。無理だろうけどね。
「その叔父さんって、そんなに良い人なの?」
「勿論。最高だよ!」
肉に自慢する俺もどうかしてるなあ、なんて思うけれど、仕方ない。だって肉しかいないんだもん。
授業中も、黒板に立つのは肉。肉がチョークで何か書いてるなあ、なんて思いながら窓の外を見る。あ、犬の散歩をしている肉がいる。あっちはジョギングかなあ。肉が走ってる。美味しそうだなあ。
ぐう、と腹の虫が鳴り、教室中の肉がどっと笑う。
「おいおい、昼まであと30分は我慢しろよ。」
教科書を持ちながら、教壇の前の肉が言う。ハアイと返事をするが、肉は暑いのか手でパタパタと扇ぎながら、肉汁を滴らせている。余計に腹が減って、我慢出来なくてこっそり弁当を開けて、一口食べた。ああ、美味しい。
周りがどんなに肉に見えたって、やっぱり叔父さんの作った料理が一番美味しいや。
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