短編.6

「大学には行きなさい。」

それが、最近の叔父さんの口癖。俺は決まってこう返す。

「叔父さんの跡を継ぎたい。」

そう。肉屋になりたいんだ。人の肉を売る、肉屋。それでも叔父さんは、頑として首を横に振る。

「きちんとした会社に入って、仕事が落ち着いたらやり方を教えてやる。」

だから俺はなんだかイライラしちゃって、大きな音を立てて部屋の扉を閉めて、籠る。叔父さんの事がこんなに大好きなのに。叔父さんと一緒にあの仕事をして、叔父さんの助けになりたいのに。

でも、分かってる。それだけじゃあ生きていけないって。叔父さんは、それをちゃんと理解しているから、昼間は会社に勤めてる。俺も、そうするべきなんだ。分かってる。分かってるけど。

 

人間が、皆食料にしか見えないんだよ。

 

「花。」

ノックと共に、叔父さんが扉の向こうで俺の名前を呼んだ。返事なんて、してやるもんか。

「花、言いすぎた。すまない。」

謝るのは、決まって叔父さんの方。叔父さんは、悪くない。本当は、俺が悪いんだ。我儘で利己的で自分勝手で。

社会に出るのが、怖いだけ。

叔父さんみたいに、上手く世の中を渡れる自信が、俺には無い。

大学なんて入ったら、それこそおじさんと擦れ違ってしまうような気がして、嫌なだけ。

俺って、いつまで経っても子供だな。

少しだけ扉を開けると、あの頃より目線が近くなった叔父さんがいた。俺も大分背は伸びたけど、今でも叔父さんの方が背は高い。歳をとった叔父さんは、以前よりも色っぽくなった。

ごめんなさい。」

「花は悪くないよ。」

私の事を考えてくれたんだろう、と言って俺の頭を撫でる。優しい叔父さん。ずっと変わらない。俺の、大好きな叔父さん。

「自信、無いんだ。叔父さんみたいに、良い会社に入れる程頭も良くないし。」

「良い会社なんて、入らなくていい。きちんと社会経験を積め、と言っているんだ。」

「大学行ったら、叔父さんとあんまり一緒にいられなくなっちゃうでしょ?」

「夜は帰ってくるんだろう?それなら、一緒に夕飯が食べられる。」

セックスは?」

叔父さんは、少しだけ目を丸く見開いたあと、ふ、と笑って俺にキスをした。

「花がしたい時に、していいよ。」

叔父さんの首に腕を回して、舌を捻じ込ませた。はあ、と息が漏れる。叔父さんも俺の口の中に舌を入れてくれた。ああ、今日はいいぞ、って合図だ。そのまま叔父さんを持ち上げて、ベッドに連れて行く。背は高いけれど、体重は軽くなった叔父さんは、俺に簡単に捻じ伏せられるけれど、そんな事しなくたって、俺は叔父さんとは愛のあるセックスがしたいんだ。叔父さんが嫌な日は、我慢する。それが、俺の中のルール。

叔父さんの上に跨って、服を脱がせると、少し肋が浮いていた。その身体を見るたびに、ああ、叔父さんは俺を置いて先に逝ってしまうのだろうな、という不安が押し寄せる。

それを察しているのか、叔父さんはいつも決まって言う。

「花は、ずっと私の可愛い花だよ。」

首を撫でられて、猫みたいに喉を鳴らすと、叔父さんはふふふと笑って俺にキスしてくれる。

「叔父さん、好き。好きだよ。愛してる。」

叔父さんを抱きながら、いつも思う。俺は、叔父さんの一番になれてるのかな。可愛い花、とは言ってくれる。でも、愛しい花、とは言ってくれない。身体を重ねると少し喘ぐ様にはなったし、叔父さん曰く「怖いくらいの快感」があるとは言っているけれど、それは叔父さんが今迄セックスに興味がなかっただけかもしれないし、やっぱり俺の不安は尽きない。

不安が募って、思わずたくさん噛み付いたりしてしまって。

じわりと滲む血を舐めとると、叔父さんは真っ赤になって顔を手で隠しながら、ふうふうと息を吐いていた。

「気持ち良い?」

「怖い。」

決まって、そう言う。まだ本当のセックスが恐怖にしか感じないみたい。叔父さんの手を退けて、涙で揺れる瞳を舐めると、びくりと身体が跳ねた。

「俺を見て。俺だけを見て。」

必死で頷く叔父さんは、真っ赤になって俺を見つめる。ああ、可愛い。もっとたくさん気持ち良くさせてあげたい。

叔父さんのすっかり勃ち上がったそこを口に含んで、ゆっくりと舐めてあげると、俺の肩を掴んでやめろ、と言う。そんな事はしなくていい、と叫ぶ叔父さんは、生娘みたいで愛おしい。

「俺の事、愛してるって言わないから、お仕置きだよ。」

そう言って咥え続けると、小さな声でぼそぼそと何か言葉を漏らした。

「ん?」

口を離して、叔父さんの顔を覗き込むと、泣きながら俺の背中に腕を回して、抱きつく。耳元で、掠れた声で、囁いた。

「あ、い、してる。愛しの花。」

俺が十八歳になって、叔父さんを抱いた最初の夜。叔父さんは初めて俺の気持ちに応えてくれた。

俺の頭はポワポワして、そこから先はどうやって叔父さんを抱いたかなんて覚えていない。それでも、特別な日になった事に違いはなかった。

大学に行って、会社に入って、ちゃんとした大人になって叔父さんとずっと一緒にいる。それが、俺の目標になったんだ。