短編2.


「血抜きしていない肉って、不味いのかなあ。」

私が死体の首を切り落とし、吊るしている時に、花がボソリと呟いた。興味があるのか、と尋ねると、ちょっとね、と答える。

今吊るしている肉は、上客から丸ごとの注文が入っているので、味見させるわけにはいかない。花にはいろいろな経験をさせてやりたい。しかし、今此処にあるのは血抜きされ、熟成された加工肉だけだ。困ったな、と顎に手を当て考えていると、花がすすすと擦り寄ってきて、私の首筋に触れる。

「叔父さんの此処、綺麗だよね。黒子も、好き。」

でもちょっと痩せてるかなあ、なんて言いながら、私の首を優しく撫で回す。

噛んでみるか?」

「いいの?」

嬉しそうに私の目を見つめ、いくよ、と言った後に首に歯が当たる。ゆっくり、確実に、皮膚がぶちぶちと切れる。私は痛いのは嫌いだが、花になら何をされてもいいと思っている。花の八重歯が私の肉を噛み千切る。まるで獣にでも噛みつかれているようだが、それが花だと思うと愛おしい。一口分の肉片を私から奪うと、ごくりと飲み込み、ぽっかりと空いた穴から滴る血を丁寧に舐め上げる。垂れるものを一雫も残さずに、花の短い舌が私の首を這う。痛いよりも、花が私の一部を自分の中に取り込んだと言う事実がそれを快感に変えた。私の肉が、血が、花の身体に入ったのだ。それはまるで体を重ねるセックスにも似た、否、それ以上に私たちが一つになったような感覚だった。

花が口を離すと、血が混じった赤い涎が糸を引く。私の顔を見て、笑顔でぺろりと唇を舐めた。

私は自分の首に手を当てる。血は、花が綺麗にしてくれたお陰か、ほとんど出ていなかった。その代わりに、そこにあった筈の肉が消えている。花は再びそこに触れ、もう一度、舌を這わせた。

「黒子は残しておいたよ。」

穴のそばにある黒子に、舌が当たる。花はそれを舌で転がし、黒子に軽くキスをする。

「俺の、大好きな部分だもの。」

鉄の味がする、なんて言う。花が齧ったからだろう、と私が言うと、花はへへへと笑って私に抱き付く。

「血は鉄の味だったけど、」

私の額の髪を掻き上げ、私の顔がよく見えるようにしてから、言った。

「叔父さんは、甘くて、口の中で溶けちゃうくらい、美味しかったよ。」

ああ、この子になら、私の全てを食べられたって構わないな、と思ってしまったのは花には内緒だ。