2.
夜の公園に散歩に出掛けた。叔父さんは、会社から帰ってきて、夕飯を食べるなり、「納期が迫っているから」と地下室に篭ってしまった。
叔父さんの言う納期は、会社のものじゃない。肉の通信販売の事だ。叔父さんは、人間の肉が好きで、自分が食べない分は通信販売で売って副収入を得ている。
叔父さんの事は大好きだし、折角の夜はいつも二人で過ごしたいけど、叔父さんの大切な時間の邪魔はしたくない。だから、そう言う日は、散歩に行く。
公園のベンチに腰掛けて、ふと空を見ると、満月が輝いていた。そう言えば、十五夜か。秋風が体を冷やす。叔父さんと一緒に、お月見したかったなあ。
「君、一人かい?」
夜空を見上げていたら、声を掛けられた。振り返ると、俺より少し背の高い、二十代くらいの男の人。ランニングしていたのだろうか。Tシャツが汗で濡れている。
でも、それよりも目に止まったのは、下のジャージの股間部分。それはしっかりと勃ち上がっていた。
「高校生?」
黙って頷く。本当は、まだ中学生だけど、あまり若すぎると引いてしまう人もいるから。
「勉強の息抜きかな?」
再び頷く。なるべく、声は出さない。俺はまだ声変わりが途中だから、声を出すと年がバレてしまう。
男の人は、空いている隣に腰掛けて、ふうと息を吐く。それからゆっくりと、俺の太腿に手を伸ばす。撫でながら、俺の耳元で囁く。
「可愛いね。」
そう言って、耳をべろりと舐めた。気持ち悪いけど、特に気にしない。いつもの事だ。耳から首筋に移動して、舌を這わせて鎖骨を舐められる。手は俺のTシャツを捲っていく。脇腹からどんどん上に、胸の突起を弄り出す。小さな声でわざと喘ぐと、興奮したのか太腿を撫でていた手を俺の股間に持っていく。ズボンの上から軽く揉みしだくと、中に入れて直接触り始める。俺は前屈みになって、顔を赤らめて男の人を涙目で見る。口角を上げて、嬉しそうに。
男の人は、コクリと喉を鳴らすと、俺の唇にキスをしてきた。舌を捻じ込んできたので、それに応えるように絡ませる。ぐちゅり、ぐちゃりと涎が混ざる音が、静かな公園に響く。
俺の胸を触っていた手で、俺の手を引き、自分の股間に持っていく。ぐり、と触ってやると、びくりと跳ねた。ジャージを下ろして直接触り、唇から顔を離して、股間を見る。我慢汁が溢れているそれに近付いて、息を吹きかけるとピクリと反応する。そのまま大きく口を開けて、それを頬張った。嫌な臭いと味。何度やっても、叔父さん以外のそれは美味しいとは感じない。でも、これも全て叔父さんの笑顔の為なのだ。そう思うと、楽しくなる。
男の人は、低い声で喘ぐ。俺の頭を掴んで、気持ちよさそうに身を任せる。
絶好のチャンスだ。
思い切り吸い上げると、男の人は大きな声で呻き、その直後、耳をつん裂くような叫び声を上げた。
股間にあったそれは、俺の手に持っていたナイフでざっくりと切られ、俺の口の中にあった。ぼたぼたと、地面に血が流れる。口に含んだ性器を吐き出して、捨てる。性器は美味しくないから、嫌いだ。
先程まで赤かった男の人の顔が、どんどん青ざめていく。
逃げようと、踵を返す男の人の足にナイフを突き刺し、走れなくする。そのまま前に倒れ込んだ男の人の髪を掴んで、顔を上げさせる。涙目で、命乞いをする。
「頭を落とすと、叔父さんが怒るからなあ。」
俺は初めて声を出した。うーんと考えて、取り敢えず手の指を一本ずつ切り落とした。叫び声が煩かったので、男の人の履いていた下着を口に突っ込んだ。舌を切り落としても良かったんだけど、舌はなかなか美味しいのだ。勿体無いからやめておく。
腹部の内臓も、なかなかだ。なるべく傷付けないように、皮膚から脂肪にかけての表面にだけを刺す。
男の人は暫く踠いていたが、その内痛みからか失神してしまった。これは、好都合だ。俺よりも少し大きいその人を担いで、帰路に着く。
叔父さん、喜んでくれるかなあ。
家に着くと、叔父さんは居間でお茶を飲んでいた。血塗れの俺の姿に動じる事も無く、立ち上がって地下室の扉を開ける。
「良いもの、拾ったなあ。」
褒められた。嬉しい。頭を撫でられて、へへ、と照れ笑いをする。
失神した男に金具を引っ掛けて、宙吊りにする。逆さまになると、頭に血が行って、首を切った時に血抜きしやすいんだって。
ここからは、叔父さんの仕事。と言うか、趣味。肉を捌く叔父さんの顔は、恍惚としていて、エロティックだ。
叔父さんが趣味を堪能している間は、俺は叔父さんの表情や身体を隅々まで見る。
俺よりずっと背が高くて、意外とガッシリしている。黒い髪に黒い睫毛。目尻に少し皺がある。決して若くも、美人でもないけれど、大人の色気の漂う良い男。それが、叔父さん。
俺が一番好きなのは、その薄い唇。切り落とした肉を見る度に、ペロリと舌を出して、唇を舐めるんだ。唾液で少し濡れて、てらてらと光る。色っぽくて、直ぐにでもキスしたくなるけど、叔父さんの時間の邪魔は出来ない。俺の股間は最高潮に膨れ上がっている。
褒めてくれたし、きっと今日は、セックスさせてくれるだろう。
淡白で、年のせいか疲れやすい叔父さんは、毎日はやらせてくれないのだ。
でも、それが却って、抱く時に興奮を煽る。
「少し、筋肉質だな。」
ランニングをしていたからなあ。普段から鍛えていた男だったのだろう。叔父さんに落胆されたくなかったが、次の言葉で喜びに変わる。
「程よい筋肉だ。これは、上物だぞ。」
良くやったな花、と叔父さんは笑顔を向けた。笑うと可愛い叔父さん。叔父さんの嬉しそうな顔は、大好きだ。
「少し熟成させたら、最高級の肉になるぞ。」
熟成肉、と言う言葉に涎が垂れる。それと共に、腹が鳴った。夕食後に一仕事したからか、お腹が空いてしまったようだ。少し恥ずかしい。
叔父さんはくすくすと笑うと、冷凍庫から、カップアイスを取り出して、俺に渡してくれた。アイスと言っても、血抜きの時に出た血を砕いた骨と混ぜて固めた、シャーベットだ。これが、とても美味いんだ。
アイスを渡しながら、叔父さんは俺の股間の膨らみに気付いたようだった。頭をくしゃりと撫でて、もう少し待っていろ、と優しく言った。そんな風に言われると、期待してしまう。
アイスを食べながら、叔父さんを見つめる。叔父さんの股間も、少し膨らんでいた。人肉処理の時は、いつもそうだ。叔父さんにとっての性的快感らしい。
俺も人を殺したり、傷付けたりするのは好きだけど、やっぱり叔父さんとのセックスに勝るものはない。
早く終わらないかな、とも思うけれど、楽しそうな叔父さんを見るのも好きだ。叔父さんが幸せだと、俺も幸せになれる。
「叔父さん。」
「うん?」
「叔父さんは、俺の事、好き?」
「ああ。」
目線は肉のまま、叔父さんは答えた。
「大切な、甥っ子だからな。」
そう言う意味じゃあないんだけどなあ。
もしも、叔父さんが女の人と付き合ったり、結婚したりしたら、俺はその人を殺して、叔父さんの両脚を切り落として、片目を潰して、叔父さんが俺以外を見れないようにするだろう。腕は肉を捌くために取っておいてあげる。
俺の、大切な、大好きな、叔父さん。
叔父さんの為なら、俺、何人だって殺せるよ。
「花の為なら、何だって出来るよ。」
俺の心を見透かしたように叔父さんが言ったので、俺は思わず笑顔になってしまった。
「叔父さん、大好き。」
「私も好きだよ、花。」
ああ、俺って、もしかしなくても、とても幸せなんじゃあないだろうか。
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