1.
あれは金曜日の昼頃だったか。携帯が鳴った。
着信を見ると、甥からだった。何用かと会社にいた私は、デスクを離れて廊下に出る。
「叔父さん。」
甥は少々震えた声で、私を呼んだ。
「殺しちゃった。」
弟家族は、近所でも評判の仲良し家族だった。
しかし、実際は酒が入る度に息子を殴り倒す、酷い虐待を繰り返していた。度が過ぎる、と流石の私も思ってはいたが、兄さんには関係ないよ、と弟に言われていたので、私も口を出す事はしなかった。
甥の花は、いつも痣だらけで、口から滴る血を舐め、私に救いの目を向けた。その血に興奮しなかったと言えば嘘になるが、それでも、私はただ見ているしかなかった。
私は裏で、人肉の取引をしている。大体が、殺したは良いが処理に困った人間の解体と、調理であった。私自身も人肉の味は好みであったし、おこぼれで食べられるのだから、この裏仕事は天職だった。
血抜きをし、四肢を切り落とし、肉を削ぐ。【生モノ】と書いたシールを貼って、箱に詰め、それを食べたがる人々に通信販売で売りつけていた。
それでも、なかなか売れない部位はある。それを上手く調理して食すのが、私の密かな楽しみであった。
抜いた血は、砕いた骨と混ぜ、凍らせてシャーベットにする。これが、なかなかに美味い。シャリシャリと言う感覚と、時々ゴリっとした歯応え。デザートにはもってこいだ。
しかし、そんな裏仕事を甥に話したことなど無かった。
花が何故私に電話してきたのか謎だったが、頼れる身内が他にいなかったと言うのも考えられる。
仕事を終え、弟の家に向かった。
チャイムを押すと、花が出た。血塗れの制服。着替えていない。私が来るまで昼から待っていたのだろうか。
「叔父さん。」
声変わり途中のざらついた声で、私を呼んだ。中に入ると、血の匂いが充満していた。リビングに死体が二つ。弟と、嫁である。何箇所も刺された痕跡があった。
「どうしよう。これ。」
親を殺したにしては落ち着いている。殺した事に困惑していると言うよりは、処理に困っている様に見えた。
「どうしたい?」
花の意見を聞く事にする。花は下を向いて、生ゴミかなあと呟いた。私は花の頭をポンと叩いて、取り敢えず風呂に入って着替える様に促した。
花がいない間に、死体の状態を見る。今は真夏だ。殺したと報告があったのは、昼。6時間は経っているそれは、硬直し、暑さで腐りかけていた。深く刺されている箇所を無理やりこじ開けて、中を見る。手を突っ込み、付いた血を舐めた。内側は、まだ充分食べられそうだ。
側に出刃包丁が落ちていた。これで刺したのだろう。血がこびり付いている。
さて、どうしたものかと思い倦ねていると、風呂から上がってサッパリした花が顔を出した。
「こっちに来るな。」
折角綺麗になったのに、また汚れてしまうぞ、と言うが、花は気にせず血溜まりを踏みつけた。風呂に入った意味がない。ため息を吐く。
「ゴミ袋はあるか?それと、鋸。」
「鋸なら、物置にあるよ。取ってくるね。」
パタパタと走って、鋸を取りに行った。私は台所を漁ってゴミ袋を探す。折角食べられるんだ。売れる状態ではないが、私の腹を満たすには充分だ。
実の弟を食べるなんて、と思われそうだが、目の前に美味い肉を出されて、我慢出来る者がいるのだろうか。私にとって、弟でも、死体は食料でしかない。
ゴミ袋を広げて、大きさを確認する。これなら、バラせば入るだろう。
「叔父さん!鋸あったよ!」
花が元気よく戻ってきた。手に持った鋸は、大分錆び付いていた。しかし、それを見越してか、花はもう片方の手に鉈を持っていた。こちらはまだ綺麗な状態だ。
私は鉈を受け取って、振りかぶって弟の腕を落とした。思ったよりも切れ味がよく、腕くらいなら一度で外れた。
「バラバラにするの?」
「ああ、このままじゃあ持って帰れないからな。」
「俺もやりたい!」
花は鋸で嫁、花の母親の脚をギコギコと切り始めた。やはり切れ味が悪いらしく、汗をかきながら鋸を引いた。なんとか一本外し、ふう、と息を吐く。
腹に刃を当てた花を私は止めた。そこは、まだ食べられる部分だ。
胴体を残し、頭部と四肢を切るように言うと、花はハアイと元気に返事をして、残りを切った。
2人分の12個のパーツになった弟夫婦を無造作に袋に入れて、床の血を拭いた。折角綺麗になった花も手伝って、結局2人して血だらけになってしまった。
「叔父さん、車?」
「ああ。」
花はもじもじして、私の服の裾を掴んだ。
「一緒に、行っても良い?」
頷くと、ぱっと明るい顔になり、私が担ごうとした袋を俺が持つよ!といそいそと車に運んだ。
閑静な住宅街を抜けている間、花は中学生らしく学校の事、好きな芸能人の事、それから先日友達と食べに行ったハンバーガーが美味しかったとペラペラ喋った。ハンバーガーの話をすると、ぐう、と花の腹が鳴った。恐らく、殺してから何も食べていなかったのだろう。
「夕飯は、ハンバーグにするか。」
そう言うと、花は嬉しそうに笑った。
弟と嫁の胴体の肉を削ぎ、肉挽き器でミンチにした。卵、小麦粉、玉ねぎと混ぜて、フライパンで焼く。オイスターソースとケチャップ、塩胡椒でソースを作る。ポテトと、人参のコンソメ煮を添えて、出来上がり。
うわあ、と感嘆の声を上げる花。
「これは、お前の両親だ。無理して食べなくて良いぞ。」
カップ麺もあるから、と言ったが、それを聞く事なくハンバーグに齧り付いた。
「父さんと母さんって、こんなに美味しかったんだね!」
パクパクと食べる花に、思わず笑ってしまった。もっと早く殺せばよかったよ、とも言う。
「普通に食べても、人肉は美味しいもんじゃない。私の料理の腕のお陰だ。」
有り難く思えよ、と言うと、花は、叔父さん凄いや!と私を褒め称えた。
「ねえ、叔父さん、」
食べ終えた花は、遠慮がちに話し掛けてきた。
「俺、此処にいても、いい、かな...?」
食器を片付けながら、私は黙っていた。私の両親は、一昨年他界している。他に身内はいない。必然的に、面倒を見るのは私になる。しかし、そうなると、私の裏仕事、趣味が自由に堪能出来なくなってしまうし、何より、花が耐えられるのか。
洗い物を後にして、私は地下室に通じる扉へ向かった。
「一緒に来い。下にあるものを見ても平気なら、此処に置いてやる。」
薄暗い階段を降りる。ひやりとした空気。充満した血の匂い。花は私の服を掴んで、暗い中をきょろきょろと見渡す。階下に着くと、電気を点けた。
至る所に血の染み。処理途中の死体。ホルマリンに漬けた眼球。
ごくり、と息を飲む音がした。流石にビビったかと思い、振り返って花を見ると、期待と興奮に満ち溢れた目をしていた。
なんだ、こいつは、私と同じだったのか。
これは何、これは、これはと花は質問責め。その中でも、男性器を棒に挿したものが気になったらしく、一つ手に取って、わあ、と呟いた。
「それは、梁型だ。」
「はりがた?」
「所謂、ディルドだな。本物だが。」
「どう使うの。」
「マスターベーションに。」
「ます...?」
「自慰だ。オナニー。」
その言葉に、顔を赤くした。性春真っ只中の中学生には、刺激が強すぎたか。しかし、これはそれなりに売れ筋の商品なのだ。
「叔父さんも、これ使うの?」
腕組みをして、考えた。言われてみれば、自分で使った事は無いな。私は元々、あまり自分でしない。性的快楽は、人肉の処理がそれだからだ。
「ねえ、叔父さん。」
花は赤い顔で、梁型を持ったまま近寄った。
「叔父さんが欲しいなら、俺がしてあげるよ。」
私は自分より15センチは低い頭をくしゃりと撫でた。
「大丈夫だ。無理するな。」
花は、ムッとした表情で私を見上げた。
「子ども扱い、しないでよ。俺が親を殺したの、知ってるでしょ。」
「殺しと年齢は、関係無い。花はまだ、子どもだろう?」
すると、必死で背伸びをして、私の両頬を手で挟み、自分の顔に近付け、軽くキスをした。唇を離すと、どうだ、と言う顔をして私を見る。私は花の髪をぐいと掴み上げ、今度は私からキスをした。しかし、それは先程花がしたものとは違う、舌を絡めるキス。口腔内で頬や上顎の内側を舐め上げると、花はびくりと反応するが、抵抗はしなかった。口を離すと、糸を引く涎。はあ、はあ、と肩で息をする花。
「これくらい出来たら、大人と認めてやっても良い。」
「どうしよう、叔父さん。」
股間を押さえて、恥ずかしそうに小さな声で言った。
「勃っちゃった。」
責任取ってよ、と上目遣いで言う花に、再びキスをした。歯列を舐め、舌を暴れさせると、それに応えるように、花もまた舌を絡めてきた。溢れる唾液を一気に吸い上げると、花の身体は痙攣する。蕩けたような瞳で、私を見る。
「いったか。」
こくりと頷く。私は花の股間に触れた。確かにズボンは濡れているが、其処はまだ勃起している。
仕方ない、と私は服を脱ぎ、花のズボンも下ろす。白い太腿には、綺麗な青い痣と、切り傷があった。その傷に、興奮しなかったと言えば嘘になる。花のものを口に含み、舌を使って舐め上げると、花は私の頭を掴んで、喘いだ。恐らく、初めての快感なのだろう。私を呼んで、無理、駄目、とよがる。
「叔父さっ、やだあっ、」
何が嫌なのか分からず、舐め続けていると、花は無理矢理私の頭を引っ剥がした。
「口じゃ、やだっ、叔父さんの、中が良いっ、」
こんなおっさんの何処が良いのか分からず、キョトンとしてしまう。
「叔父さん、父さんを切ってる時の顔、凄くエッチだったんだもんっ。また、あの顔見たいっ。」
人を解体している時の自分が、そんな顔をしているなんて、考えた事は無かった。何せ、いつも1人で行っていたからだ。
「それに、」
花は上のTシャツも脱ぎながら、続けた。痣が目立ち、青と白のコントラストが美しい身体だった。
「俺だけじゃなくて、叔父さんにも、気持ち良くなって欲しい。」
仕方無く、私はズボンを脱ぐ。花は私の尻を揉みながら、私の股間に自分の股間を擦り付ける。既に花は一度いっているので、濡れた性器がぐちゅぐちゅと音を立てる。花のものに触れて、手を湿らせると、私は自分の穴にゆっくりと指を入れて、解した。花は、童貞だろう。尻を切られては堪らない。解体するのは好きだが、自分が痛いのは嫌いだ。
解体用のテーブルに手を付き、花に尻を向けて、良いぞと言う。興奮した花は、私の中に一気に挿入した。太さは無いが、意外と長さがあり、奥が突き上げられる感覚。久しぶりだ。
「どうすれば、良いの。」
「動け。花の好きなようにして良い。」
「そんなんじゃ、嫌だ。」
私の腰を優しく撫でた。
「叔父さんにも、気持ち良くなって欲しいんだってば。」
「それなら、少し右側、そう、其処だ。其処を擦るように、突いてくれれば良い。」
ここ?と花は私の良い所をトントンと叩くように突く。久しぶりの感覚に、思わず声が出そうになるが、叔父である手前、なるべく我慢した。しかし、下半身は正直で、其処を責められる度に、我慢汁が溢れる。それに気付いた花は、私の前も、手で包んで扱いた。
肌の当たる音、ものを扱く音。卑猥な音が部屋中に響く。
「叔父さんっ、」
気持ち良さそうに動く花は、私の耳を甘噛みし、続いて首筋に噛み付いた。そこまで痛くは無いが、跡が付く。それを舐めながら、浅く息を吐く花。
「いきそうっ、中に、出して良い?」
「ああ。」
穴に力を入れてやると、花は私の中に精液を吐き出した。それと同時に、扱いていた私のものに爪を立てられ、私も呆気なくいってしまった。
行為を終えると、2人してその場に座り込んだ。花は私の肩に頭を置いて、言った。
「また、お肉食べたいなあ。」
「冷凍ならあるが。」
「やっぱり、新鮮な方が、美味しい?」
「そりゃあ、な。しかし、簡単に手に入るもんじゃ無い。」
「どんなのが、美味しいの?」
「太りすぎていても、脂が多くて私は苦手だ。だからと言って、筋肉質な奴のは、固すぎる。中肉中背が一番無難かな。」
ふうん、と花は何かを考えている様に、答えた。
翌日、花は朝から出掛け、帰宅したのは夕方だった。肩にゴミ袋を携え、玄関でそれを開けた。
中には、手足を切り取られた男。口をガムテープで貼り付け、喋れない様にしてあり、まだ生きていた。私の顔を見ると、助けを求める様に涙を流した。
「どうかな?」
中肉中背。頭を切り落としてこなかったのは、偉いと思う。より、新鮮なまま食べられるからだ。
「良いな。良い肉だ。」
その言葉に、男の瞳に絶望の色が宿った。
「今夜は、ステーキだな。」
やったあ、と花は両手を万歳させて、喜んだ。
それから私にあどけない笑顔を見せて、尋ねた。
「ねえ叔父さん、明日は、どんな肉が良い?」
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